マーケティングが大っ嫌いなバンクシーをアーティストトレース!

マーケティングが大っ嫌いなバンクシーをアーティストトレース!

こんにちは!K2(@laguardiamafia)です。
普段は都内のWEBサイト制作会社で、お客様サポート担当として仕事をしてます。

先日、黒澤さん主催の「マーケティングトレース」スピンオフ企画「アーティストトレース」に参加させていただきました。

アーティストトレースとは、時代を生き抜いたアーティストの作品の背景にはどのようなマーケティング戦略が隠されているのか読み解く「マーケティングトレース」から派生されたイベントで、アートから学ぶマーケティングの視点というテーマです。

一見、アートとマーケティングは程遠い存在に感じますが、評価されるアート作品には「作品の価値を社会や市場に伝える構造」が存在します。その構造を読み解く事で「価値の伝え方」を再現性のあるものに変える事ができるのではないかというのが、「アーティストトレース」の目的です。

ピカソが写実的なアートからキュビズムなアートに切り替えたのも実はマーケティングなのでは?というように芸術分野での成功から学べるマーケティングもある事に気づかされました。

個人的な見解なので間違いや思考の浅い点もあるかと思いますが、
優しく見守るか、ガン無視していただければと思います。
トレースさせて頂く、企業・商品・サービス・アート・アーティストには最大の敬意を表します。

そこで今回は、個人的に気になるアーティスト「バンクシー」をトレースしました!

数々の作品で、世界中のファンを魅了するバンクシー。違法行為である落書きが、オークションで○億円で落札されるようになるまでには、独自のマーケティング手法があったのではないか。

成功要因を紐解く為に、バンクシーをトレース!!

マーケティングが大っ嫌いなバンクシー

バーコード

実はバンクシーはマーケティングに対する不快感をアートで表現しています。バンクシー作品で頻繁に取り上げられるテーマのひとつが「反消費主義」なのです。

反消費主義を表す「バーコード」

バンクシーが違法作品・版画コレクションによって、広く知られ始めた初期の代表作品のひとつに「バーコード」があります。

「資本主義が崩壊しない限り世界を変える為にできる事なんて、何もない。それまでは気休めに買い物でもしてりゃいいのさ。」

「バーコード」は単色のステンシル版画であり、構図の前面にはヒョウがいてその背後に車輪のついた檻が描かれており、動物保護から消費主義まで様々な解釈ができる作品になっています。

2004年に版画として初めて制作され、2012年3月に初めてオークションにかけられました。ロンドンのアーバンアートセールという競売会で落札され、予想落札価格は6〜8万ポンドでしたが、最終的に7万5650ポンドの値がつけられました。

2016年6月にも競売会で「バーコード」の別のオリジナル作品が、15万8500ポンドで売却されています。

私たちは皆、商品を探して狩りをし、商品の生産者によって狩られている。

バーコードという仕組みが私たちの暮らしに登場したのは、1970年代の事です。以来その役割をしっかり果たしており、消費者が素早く買い物の支払いを済ませる事に役立っています。

「バーコード」の様々な解釈

この作品は主に動物保護・消費主義の視点から様々な解釈がされています。バンクシーは見る人に自由に解釈する権利を与え、自分で決めるように促しています。

 解釈① ヒョウは折り曲げられた柵の間を通り抜け、消費社会のシンボルであるバーコードを後に残して檻から出て前に歩いている。

 解釈② ヒョウ柄とバーコードの模様の組み合わせがユニークであり、ヒョウ柄は自然を讃えるものであり、バーコードの線はテクノロジーの功績を表す。

 解釈③ ネコ科の野生動物の自由気ままな生き方と、バーコードという大勢順応主義とを関連づけて表している。

 解釈④ 動物たちは人間の楽しみの為に、動物園に閉じ込められている。動物の商品化に対する抗議。

消費の檻から逃げ出した肉食動物を恐るべきなのか。この動物は消費崇拝に支配されることのない、稀有な人間を現しているのだろうか?解釈が解釈を生む作品になっています。

人生の真の価値は、あちこちからやってくる大量のマーケティング情報に取って代わられ、時として恐怖となる。なぜなら私たちの周りにあるものの多くが嘘っぱちだからだ。

私たちの暮らしに欠かせない物や、イベント、休暇、その多くは、マーケターが特定の経済的問題を解消する為に編み出したものだ。

資本主義システムは、常により多くのものを買う事で、内なる空虚さと孤独感という主観的な感覚を埋める様に私たちをうなずかせる。新車を運転させ、より大きな家に住まわせ、流行を追いかけて、服を取っ替え引っ替えさせようとする。

こうして私たちは、最後には自由が奪われてしまう。はたしてそれは、本当に幸せなのだろうか?

引用元:バンクシー 天才か反逆者か

バンクシーをアーティストトレース!!

Game Changer

本題のアーティストトレースに入りたいと思います。今回は2020年5月7日にロックダウン中のイギリスで発表した「Game Changer」という作品に絞ってトレースしてみました。

「あなた方の尽力に感謝します。白と黒だけの作品でも、少し医療現場が明るくなる事を願っています。」

これはイギリス南部サウサンプトン総合病院に寄贈された作品と共にバンクシーが残したメモです。

作品には、つなぎのデニムを着た少年が人形のおもちゃで遊んでいる様子が描かれています。少年が手にしているのは看護師の人形で、側にあるゴミ箱の中にはスパイダーマンとバットマンの人形が無残な形で捨てられています。

マントを纏い腕を高くあげている看護師の人形は、「Game Changer」のタイトル通り「新時代のヒーロー」に変わったという様な作品に仕上がってます。

バンクシー作品はアーティストトレースしやすい!?

これまでもバンクシーは作品で反戦・反消費主義・反ファシズム・テロリズムといった政治・社会的な現代の問題を批判的に検証しています。

なので作品毎の解釈によってトレース全体も変わってきます。特にポジショニングマップの2軸の選定は非常に重要だと感じました。

「Game Changer」はポリス・ジョンソン英首相への皮肉!?

本来ポジショニングマップの軸は、顧客重要KBFかつ競合製品より優位な軸で選定します。今回の軸は「作品の価値」と「ターゲット」の2軸で選定しました。

作品の価値とは、受け取り側の解釈です。受け取り側がどう感じるのかで価値は変わってくると考えました。今回は「医療支援」と「社会批判」のどちらかというと「医療支援」に作品の価値を感じました。

また、バンクシー作品の中でも誰を批判・皮肉しているのか「ターゲット」は非常に重要な要素です。特に「Game Changer」は感染前後での発言が変わったポリス・ジョンソン英首相、個人への皮肉も解釈することができる珍しい作品だと感じました。

落書き野郎「バンクシー」の成功要因

バンクシー作品には「場所・媒体・主観」という技術的な側面があります。世界各国で発見される作品・いつどこで残されるかわからないゲリラ性・絵画やステンシル、ホテルなどの作品などアートの領域を超えた芸術作品を数々残しています。

今回の作品で注目したいのは「投下場所と日時」です。

投下場所 イギリスで開発中のCOVID-19向け治療薬の臨床試験がはじまったイギリス南部のサウサンプトン総合病院に作品を寄贈。

日時 2020年5月7日 「世界赤十字デー」の前日に公開

バンクシーのUSP(他にはなく自分だけが提供する価値)は、作品の『キャンバス』になる場所を注意深く選定し、その場所の風景・状況を借景してひとつの作品として完成させる、サイトスペシフィックという手法だと考えます。

さらに、バンクシー作品は表面的な性質を超えたものであり、バンクシーは作品を通じて深刻な社会問題に切り込み、伝えようとするメッセージ性が含んでいます。

「Game Changer」の様々な解釈

今回の作品にはどの様なメッセージ性が含まれているのでしょうか。様々な解釈からそのメッセージ性を紐解いていきます。

 解釈① 看護師は商業用にグッズ化された人形になっており、飽きやすい子供によって無邪気に遊ばれている。

→大人が、医療従事者の献身を無邪気に感謝するだけで満足すれば、彼らをおもちゃの様に使い捨てることになる。

→今だけ看護師を讃えヒーローの様に熱狂しているが、飽きれば使い捨て人形みたいに掌を返す事への皮肉。

 解釈② COVID-19の国家危機の最前線で闘うヒーローが、赤十字「人道支援団体」。つまりボランティア団体。自己犠牲に頼る援助活動は長続きしないという風刺。

 解釈③ 白黒で描かれた作品は、白人の少年と有色人種の看護師。医療現場ではヒスパニックマイノリティのスタッフの犠牲が大きい事を風刺。

 解釈④ 少年はポリス・ジョンソン英首相。移民施策を行ってきたが、生死を彷徨った時に2人の移民の担当看護師に助けられ、考えが変わった事を風刺。

おおよそ以上の解釈に分類されています。

個人的には、モノクロで仕上げた作品に「even if it’s only black and white.」とあえてメモを残している様に「白黒」という部分に「医療従事者への敬意」だけではない強いメッセージ性を感じます。

「Game Changer」はまだ完成していない!?

この作品は、寄贈した病院内で2020年の秋まで展示され、その後はオークションに出品し、NHS(国民医療サービス)に寄付すると言う直接行動まで含めてひとつの作品に仕上げようとしています。

今回の作品は、珍しくステンシル画ではなく、手描きで描かれている事も注目を集めており、既に作品の落札予想価格は、約6億5000万円に上ると言う予想も出ています。

人によって解釈が異なる「芸術」の拡散性

最後の締めの部分は、この様にまとめました。

『メッセージを受け取る人、それぞれに解釈を任せる事で様々な解釈が「拡散性」を生みだし価値を伝えている』

芸術から何を感じるかは、人によって異なります。芸術に込めた「メッセージ性」が、様々な人の解釈を生み、議論に発展し、拡散性を生み出します。その拡散性が価値に繋がっていくと仮定すると、人によって解釈が異なる「メッセージ性」が芸術の価値を決めると言えるのではないでしょうか。

いろんな解釈が生まれる=口コミが生まれる。SNS時代の消費行動「ULSSAS」にも通じるものを感じました。

いろんな作品で解釈を生み、世界を魅了するバンクシーに今後も注目してきます!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!